大きな手。
バスケットボールを余裕で鷲掴みできる手は、少し冷たくなっていた。
「…お礼を、言いたかったんです」
「お礼?」
「聞きました。コータ先輩は、あたしのこと守るために、色々動いてくれてたんですよね」
「ああ…そんなこと。言っただろ? 好きなコ守んのは男の使命だって」
「あたしは、守られることは当たり前だと思えないから。びっくりしたけど…うれしかったです」
正直に言った。
コータ先輩のまっすぐな気持ちは、本当にうれしかったから。
この人に嘘はつきたくなかった。
素直な気持ちで返したかった。
だから、
「ありがとう」
そう言って、あたしはコータ先輩の手の中から、抜け出した。
「もう、いいですから」
「…いいって?」
「…嫌がらせを受けても、平気です。その内きっとみんなも飽きて、噂も消えると思うから」
テーブルの上で、コータ先輩がキュッと拳をつくる。
あの手を握り返していたら、あたしはきっと幸せになれていただろう。
コータ先輩に守られて。
でも、甘えられない。