「なんか色々と事情がありそうだけど…あの金パツの人、彼氏じゃないんだよな?」
「ちがいます。全然、そういうんじゃ…」
「あの背の高い女の人がいるから?」
「……え?」
「美緒、あの金パツの人を避けてるだろ。あの人最近ずっと校門のトコで待ってるけど、美緒は体育館の裏から出てるじゃん」
気づかれてないと思ってたけど、『抜け道』を使ってることはバレバレだったらしい。
ほんとにコータ先輩って、あたしをよく見てるんだ。
「……俺にしといたら?」
「…えっ?」
コータ先輩の、遠慮がちと言えなくもない小さな呟き。
「俺は結構モテるけど、一途だし、好きなコだけに優しくする男だよ」
まさか。
あたしは少しだけ笑った。
コータ先輩は基本から優しいと思う。
友人、知人、誰にでも。
ウソツキって言おうとしたのに…
先輩はテーブルの上で、そっとあたしの手を握ってきた。
心臓が、
心が、
このとき揺れたことは、間違いない。