不思議な話だけど、恭一は学校では毎日待ち伏せしてるけど、家にはまったく来ていない。
こっちで待ち伏せした方が確実なのに。
バイト終わりのあたしを原チャで送ってくれてたときも、家の前までじゃなく、少し離れたトコであたしをおろしていたっけ。
徹底的なまでに、家に近づかないのだ。
そこにも、恭一の謎が隠されているんだろう。
気になるけれど、その謎はたぶんもう解けない。
「美緒ちゃんに呼ばれたら、いつだって、どこにだって飛んでくよ」
恭一のそのセリフを聞いたとき、なに言ってるんだって思ったけど、
いま考えれば、なんてうれしい言葉だろう。
だって恭一はきっと、約束を破らない。
でも、呼べないよ…
秋晴れの空を見上げると、トンボがすいと横切っていった。


