「何のためにって……ずっと考えて、万葉集の防人の歌……『鯨魚取り海や死にする山や死にする
死ぬれこそ海は潮干て山は枯れすれ』っていう歌を思い出してた」

万葉集の無常を詠んだ防人の歌。

「人の命は儚くて、誰にも気づいてもらえなくても海は凪いだり時化たりするし、
山は葉を繁らせ花をつけ実を結んでは枯れ、四季を繰り返して……
だけど人にだって、できることがあるって……」

「『防人の歌』? そんな意味の歌なのか。エコロジーの歌みたいだけどな」


「エコロジー!?」

詩月は理久の顔を見上げる。

涙の滲んだ瞳に悪戯なく微笑む理久の顔が映る。


「ちっぽけでもいいんだ。儚くたって、伝えられる思いはある」


「そう……だね」

詩月は静かに笑った。