風の詩ーー君に届け

画面中央でヴァイオリンを弾く少年と、管楽器とのアンサンブル用にアレンジされた軽快な、ホルスト作の「Jupiter――木星」を思い浮かべるのか、音色の主を確認すると、驚いたようにざわめく。




「あのCMって、本人の演奏だったんだ」




「生で見るとCMより、ずっと爽やか」




安坂は音色を重ねるのを躊躇い、詩月の演奏に耳を傾け、演奏する詩月を見守る。




半年余りの短い間に様々な経験をし、思いの及ぶ以上に腕を上げている詩月の演奏に驚く。



安坂はNフィルの公演や個人のコンサート等、型にはまった演奏会ではなく、街頭の雑踏で奏でる詩月のヴァイオリンを久しぶりに聴いた。




演奏の先に聴き手がいることを意識し、聴き手に語り掛けるように曲を奏でる。