風の詩ーー君に届け

優雅で艶もありながら華もある音色、安定した技術。



難易度の高い曲をさらりと、情感たっぷりに弾く。



数分の曲を繰り返し弾き終え、詩月は弓を下ろし、額の汗を拭う。



「緒方……呼び出してすまない」



詩月はポツリ言う。



「いい曲ね」



「裏門の男神像の下で聴いた曲だ。
……真っ先に、君に聴かせたかった」



郁子が、あっと息を飲み、頬を染める。



「緒方……ウィーンに留学が決まった。
11月早々に発つ」



郁子の目に涙が滲む。



「緒方……エリザベート国際コンクールに挑戦しようと思う」



真剣な眼差しで詩月は淡々と告げる。



「来年はヴァイオリン、再来年にはピアノ。
……緒方、覚えてるか?
『追いかけて来い』と言ったこと」