風の詩ーー君に届け

盆明け。

詩月は学長室を出ると、ゆっくり正門前に向かう。



昨晩、詩月は楽譜を見つめながら、郁子に電話を掛けた。



――緒方。明日11時、正門前で待ってる




楽譜を念入りに見直し、ヴァイオリンを調弦し、詩月は郁子を待つ。



真夏の陽射しが、煉瓦作りの正門通路に容赦なく照りつけている。



正門像の僅かな影が、辛うじて陽射しを和らげる。



約束の時間を見計らい、詩月は曲を弾き始める。



緩やかな坂道を登り、正門へ向ってくる郁子の耳に、ヴァイオリンの音色が届く。




あ――。



初めて聴く調べに、郁子は耳を澄ませる。




――周桜くんの弾くヴァイオリンの音色。

この音色は聴き間違えない



郁子は歩を速める。