風の詩ーー君に届け

「あの指で……」



「ウジェーヌ・イザイにまで挑戦し、ウジェーヌ・イザイに落選した後も幾つかの国際コンクールに挑戦して、帰国後は指導者として、多くの演奏家を育ててきた人が、土素人と一緒に弾いているんだ」



「あのヴァイオリン演奏を……した人が」



「お前の不安とは次元が違うかもしれないが、願いや夢を叶えるってさ、後先なんて考えていたら、それこそツキを逃すよな」



「安坂……さん」



「頼りない声を出すなよ。オルフェウスとエウリュディケの二重奏を聴いたくせに。音楽の祝福を受けたくせに」



詩月の頬が薄紅に染まる。


「周桜、決断する時は」



「今でしょ!!」



安坂の頭の上から低い声が降った。



いつ、モルダウに入ってきたのか。

いつから話を聞いていたのか。


詩月も安坂も気づかなかった。