風の詩ーー君に届け

安坂は詩月本人から、国際音楽コンクールに挑戦すると直に聞き、胸の鼓動が止まらないほど興奮している。

詩月が大学へ入学して以来、学長から安坂への広報手伝いの声がかりが、めっきり減った。

安坂は特に何とも思っていないし、その訳も納得している。

詩月が中学生から始めた街頭演奏で培った、即興演奏やパフォーマンスの巧みさと天性の才能。

野蛮だと批判される一方で、繊細な、格調の高さを感じさせる演奏が、敷居が高いと敬遠されがちなクラシックへの概念を覆し、聴き手を惹き付ける。

安坂は敵に回すには恐い相手だと思うが、手放しで応援したい気持ちだ。


「体は大丈夫なのか。留学の許可は」


「一応許可はもらってます。幾つか条件付きですが」


「良かったな」