風の詩ーー君に届け

詩月は昨秋から、纏まらないオケとの共演、内部の執拗な苛めに散々苦しんでいた。



ある演奏家によれば、Nフィルの内部状況は有名な話だったと言う。



ヴァイオリンコンクールに初めて出場し、優勝した無名のヴァイオリニストが短期間で、Nフィルを彼処まで変え、客層を広げるとは思わなかったとも。



――「シレーナ」で勝ちたいは、ヴァイオリンが名器だからではなく、自分の実力を証明したいという意味だ。
周桜はウジェーヌ・イザイ国際音楽コンクールに喧嘩を売りにいくんだ



安坂は初めて、詩月のヴァイオリン演奏を聴いた時のことを思い出し身震いする。



――たった2年で、ここまで化けるとは思わなかった



ヴァイオリンコンクール本選、舞台袖で自分の前に弾いている演奏者の演奏に、立てないほど震えていた詩月が、まさか此処まで成長するとは想像さえしなかった。