七夕後。

蒸し暑さは更に増し、過ごしにくい日々が続く。



詩月は先日、女子学生にもらったヴァイオリンロマンス手順のメモを、初めから順番通り実行してみる。


果たして何か起こるのかを確かめてみたくなったからだ。



後ろ向きになり、願い事をし、正門の女神像ヴァイオリンのf字孔に銀貨を投げ入れる。


続いて後ろ向きになり、正門と同じ願い事をし裏門の男神像、竪琴のf字孔に銀貨を投げ入れる。



正門、女神像の下で「愛の挨拶」を奏でる。



Xceon(エクシオン)コンサート、アンコールに弾いた「愛の挨拶」が思い出され、詩月は終盤に聞こえた郁子の声が空耳ではないと思いたかった。



裏門、男神像の下で「ロマンス2番」を奏でる。


モルダウで郁子とピアノの連弾をした時の「ロマンス2番」が、詩月の頭を過る。


詩月は郁子の涙を思い出し、胸の奥が熱くなった。