それでも伝えたい想いが、この人にヴァイオリンを弾かせている。



ぎゅっと胸を締め付けられるほど、甘く優しい響きが切なくて、Xceon(エクシオン)3人の瞳が潤む。





曲が進むにつれ、詩月が巧みに「Jupiter」と「愛の挨拶」をアレンジを織り込みヴァイオリンを奏でる。


アドリブ演奏、即興演奏は詩月の得意とするところだ。



中学生の頃から街頭演奏をしている詩月には、雑作ないことだ。



だが詩月は、何故か緊張しているのを感じる。




演奏が終盤に近づく。



観客が総立ちになり、割れるような拍手を送っている。


歓声と歓喜に沸く客席から、郁子は叫ぶ。



「周桜くん、追いかけていくわ。あなたの音を」



郁子はありったけの思いを込めて叫ぶ。



詩月はヴァイオリンを奏でながら、歓声と拍手に掻き消える郁子の声を 微かに聞いた気がした。