――弾きたい曲があるんだ。

Jupiterは壊さないから。

自由に弾かせてもらえないだろうか。




「Jupiter」は3拍子、詩月が奏でている曲は4分の2拍子。



異なる旋律と曲調。



緩徐なホ長調のシンコペーション、オクターブで歌われる甘美な調べが「Jupiter」を包み込む。



満天の星空を見上げ、数多の星の美しさを声もなく見つめているような感覚。



光の織り成すミルキィウェイが、白く小さな花となり地上に降り舞っているような錯覚。



観客席から、溜め息とすすり泣きが聞こえてくる。



ハンカチを頬にあて拭う姿もある。



非常口付近で、苦虫を噛み潰したような顔で、舞台を見つめていたマネージャーが、口元を手で覆い隠す。



客席のただ1人に奏でる、詩月のヴァイオリンの音色。



――この曲は「愛の挨拶」!?