風の詩ーー君に届け

「周……」


言いかけて郁子は口元に手を当てる。


気分が悪いんだろうか。
でも、ヴァイオリンを抱えて?


郁子は訊ねようにも訊ねられない。


詩月は通路を抜けて会場を出ていき、郁子の不安は募る。


詩月はロビーへ出て、ヴァイオリンの調弦をする。



いつもより緊張しているのを感じ、掌に人文字を書き口に運ぶ。



客席に1人取り残した郁子。


何も理由を言わず、出てきたことをすまないなと思う。



が、詩月にはどう伝えればよかったのかがわからない。


熱気にのぼせ、フラフラの状態で演奏したくはない。

万全の状態で演奏したい。

歌って踊るアイドルの元気さに負けたくはない。

彼らとの、たぶん最後の演奏。

最高の演奏にしたい。


七夕に聴きたい曲と言った、緒方の期待に応えたい。