風の詩ーー君に届け

言いながら、詩月の腕が郁子の肩を抱き寄せる。



「……周桜くん」



緒方の涙は見たくない。

緒方の悲しむ顔は見たくない。

緒方には、いつも凛としていてほしい。



ずっと、思ってきた気持ちが何なのか。

詩月は郁子を抱き寄せ、鼓動を感じ、漸くわかった気がする。



「自分の意志で希望を見出だせ。そう言ったのは……緒方、君だろう。届かないなら届くまで追ってこい。追い付くまで諦めるな」



詩月がそう言い終わると、店内がいきなり騒がしくなった。



口笛、甲高い声、野次が次々に飛び交う。



ハッと辺りを見回し、2人は慌てて離れる。



「やあ、お2人さん。今1つ、押しが足らないようだ。万葉集の歌を2首、君たちに送ろうか。相聞歌なんだが……」



声は笑っているのに真顔の笑わない瞳が、詩月を見下ろしている。