風の詩ーー君に届け

店内の中央に澱と構えたグランドピアノの前。



彼らは演奏を始めた直後から、ずっと四方からの視線を浴びている。



郁子の涙が尚も溢れる。



「あの……」



頭に血がのぼり、詩月は何をどう答えていいのかも、考えられない。



緒方の涙……。

前にも見たことがあるのに今、流れている涙とは違う。



詩月にわかるのは、それだけだ。



「わたしのピアノでは……あなたに届かない」



「……違う。どんなミスも、君の……君の演奏たがら音を拾って……。君との演奏でなければ、そこまでしない。……途中で不協和音を鳴らしている」



詩月の碧い瞳が、真っ直ぐ郁子に向けられている。



「君の音は……どんなに小さくても、どんなにズレていても全て拾ってやる。追いつけないなんて……届かないなんて……そんな寂しいこと、口にするなよ」