風の詩ーー君に届け

郁子の涙に、詩月の胸が早鐘を打ち、詩月はどうしていいかわからない。



曲は終盤。

郁子の指が止まる。



「!?……緒方、演奏中だ……」



厳しい一言だと詩月は思う。


だが、これがコンクールなら、確実に失格だ。



舞台上の演奏家なら、演奏放棄だ。



「泣くなとは言わない。……でも、最後まで弾き通せ」



冷たい言葉だ。
隣で泣いている女性にかける言葉ではないよな。



そう思いながら詩月には、他に何も浮かばない。



「緒方……」



郁子の涙は止まらない。

泣きながら演奏を再開する。



乱れる郁子の音。

詩月は懸命に拾い支えながら、曲を弾く。



ざわめきは、まだ起こっていない。


――異変に気付いているのはマスターと安坂さんくらいだろう。

詩月は思い、演奏に神経を集中させる。