風の詩ーー君に届け

こんなに近くにいて、隣で同じ曲を弾いているのに、遠くにいるように感じてしまう。


この寂しさは何だろう。
どうして、こんなに寂しいんだろう。


郁子はピアノを弾きながら、こみあげてくる感情に戸惑っている。



詩月の長く細い指が微かに触れるたび、郁子は胸が締め付けられるように感じる。



「どうした? 気が乗らないのか?」



詩月の掠れた声に頬が熱くなり、郁子の目に涙が溢れる。



「違う……」



郁子が消え入りそうな声で呟く。



ポツリ、ポツリ、雫が指に落ちる。



「……緒方っ」



ポツリ、詩月の指にも落ちた雫に、詩月は郁子の顔を見る。



――涙……。



ベートーベンのロマンス2番は、ショパンの夜想曲ほど甘くない。



切なくはあるけれど、涙が溢れるほどの激しい感情はない筈だ。