「ハイネの詩」



「けど、詩も曲自体も恐ろしげなものではないんだよ。

美しい系の詩とメロディーだけど」



「そうなんすか」



「ん……ローレライは絶世の美女なんだ。

船乗りが惑わされてもおかしくないかな」



「マスター、弄ばれてもいいって聞こえます」



「アハハ……え~と、ハイネの詩集が確かあったと思うんだが……

♪なじかは知らねど~」



マスターは自慢の喉を鳴らしながら、カウンターに戻っていく。



聖諒大学音楽部声楽科を卒業したマスターは、ドイツ留学の経験もある。



カウンターに戻ったマスターは、カウンター後ろに立てた数冊のレシピ本の間から、1冊のややセピア色に焼けた本を取り出した。



パラパラと頁を繰り、「これだこれだ」と嬉しそうにする。