風の詩ーー君に届け

男は痛みを気にする様子もなく、震える詩月の肩を引き寄せ抱きしめ、背を擦る。



「大丈夫だ、ローレライはいない。ローレライなんていない」



泣きじゃくる幼い子供をあやし、諭すように。



碧い瞳が揺れる。
虚ろな瞳から頬に一筋、雫が伝う。



「……理……久……あ"ーーーーっ!!」




嗚咽とも、呻き声ともつかない詩月の絞り出すような叫び声が車両いっぱいに響き渡る。



「大丈夫、大丈夫だ」




「理久」叫び声の中、時折繰り返される名に頷き、優しく諭す声、きつく抱き背を擦る腕。



詩月の叫び声は更に激しくなった。



「大丈夫だ」繰り返す理久の声が、微かに震える。