風の詩ーー君に届け

車両の後方から怒鳴り声にも似た声と、けたたましい足音が前方へ向かってくる。



耳を塞ぎ踞り震える詩月の前で足を止め、目を見開く。



「おい、どうした!? 詩月!!」



両肩をがしりと掴み、激しく揺さぶる。


詩月の瞳には何も映っていない。
焦点の定まらない瞳で、小さく言葉を繰り返す。



「おい、詩月!? おい!!」


叫びながら、詩月の口の動きを読む。



――ローレライ!?



「おい!! 『ローレライ』って何だ? 誰かに言われたのか!!」



詩月の震えが激しくなり、詩月は、詩月に向かって叫ぶ男の腕にしがみつく。



「おい!?」



男が声を荒げて叫ぶたび、しがみついた指が腕に食い込む。



ヴァイオリンの弦を弾くために手入れをした爪が、皮膚に突き立てられ血が滲む。