風の詩ーー君に届け

どこをどう歩き電車に乗ったのかもわからない。



頭の中で鳴り止まない声に詩月は、両手で耳を塞ぐ。



「ねえ、彼……詩月!?
CMのヴァイオリニストの!?」



「まさか……」


冷房の効いた電車内。
混み始めるにはまだ時間もある。


若い女性の会話に、乗客の視線が詩月に集中する。



薄い茶系の髪色、鼻筋の通った端正な顔、細身の長い手足、ヴァイオリケースを肩から背負った詩月。


耳を塞ぎ、前斜傾姿勢になり踞るように座席に座っている。



「何だか、様子がおかしくない?」



誰かが電車の中吊りをチラッと見る。



「心臓……発作とか!?」



一際大きな声に、辺りが粟立つ。