詩月は度々、学長から呼び出され、突然の申し出に応じ、広報活動に駆り出されている。



昨秋以降、コンクールにも幾つか出場し、いずれも優勝有力候補を蹴落とし優勝している。


「コンクール荒らし」などという有り難くない異名まで付けられている。




留学の話も幾つかあるが、Nフィルとの契約を理由に断っている。



目指している国際コンクールもある。



今は亡き詩月の恩師リリィと、リリィの想い人だったアランが出場し、最終選考には到らなかったコンクールだ。



詩月は今の実力では到底、予選落ちしてしまうし、技術面、精神面、感情移入、体調管理……全てが目指すコンクールに及ばないと思う。




目深にキャップをかぶり、伊達メガネを掛け顔を隠し電車に乗る。



Nフィルの練習帰り。

車窓から見える月は、丸く大きく神秘的に輝いていた。