練習室の扉を開け、詩月は「遅刻してすみません」深々と頭を下げた。



怒号が、落ちてくる……覚悟はしていた。


あの独特のイントネーション、凄みのあれ低音で思い切り、捲し立てられるものだと思っていた。



「シヅキ出テキテモダイジョーブ」



第一声は拍子抜けするほど、穏やかなマエストロの言葉だった。



「周桜、お前いいのか?」


コンマスの如月も、他のメンバーも不思議そうな顔を詩月に向ける。



「ご心配をお掛けしました」



詩月は体を一旦起こし、再び頭を下げた。



「あなた、やっぱりバカだわ……糞がつくくらいバカ」


頭を上げた詩月に妹尾が真顔で声を張り上げる。



「幽霊みたいな顔で睨まれるよりマシです」



詩月は微かに口角を上げる。