風の詩ーー君に届け

詩月は更に続ける。



「それでも、弾けないよりはずっとマシ。

治る見込みがあるだけ、演奏家生命を断たれていないだけマシだ」



詩月はヴァイオリンを胸に抱き締める。



「母は無理をして、演奏家生命を断たれた。

痛みで悲鳴を上げながら、薬で痛みを抑えて……。

母を恨んだこともある。

だけど、母が傷めた指で痛みを堪えながら弾くヴァイオリンの音は美しかった。

母の音に応えたくて、母の笑顔が見たくて……僕はヴァイオリンを弾き始めた。

薬と心臓病の因果関係や根拠、そんなことはどうだっていい」


「お母さんを恨んでいないの? 本当に薬との因果関係はないって思ってるの?」


「……恨んでいないとは言わないし、因果関係は否定も肯定もしない。

だけど母を責めることなど、僕にはできない。

母が傷め、曲がった指で奏でる音も、流した涙も……あんな記事では、微塵も語れない。

母の音は……僕がこの指で、母の思いは……僕が奏でる」