風の詩ーー君に届け

高鳴る気持ちを抑えきれず、詩月はヴァイオリンケースからヴァイオリンを取り出す。



1758年、放浪のヴァイオリン職人ガタニーニがクレモナで製作したヴァイオリン。


この年に製作されたガタニーニの作品は本来、評価が低い。


だが……コレクターや専門家の間では、あの『シレーナ』だけは別格だと言われている代物のヴァイオリン。



数千万とも、値段はあってないとも、言い値でいくらでも値がつくとも言われている。


「シレーナ」と呼ばれる、半人半鳥の妖女の名を冠している。



高音部と低音部が、同じ楽器から奏でられる音とは思えないほど、艶やかで妖しい音色を響かせると言われている。



誰でもが弾けるヴァイオリンではなく、扱いの実に難しい楽器。



詩月は、このヴァイオリンを母親から譲り受けた。