風の詩ーー君に届け

カウンター席に座った紳士がマスターと向かい合わせで、ブラック珈琲を傾けている。

「久しぶりだな」

 紳士がレジへ向かう詩月に、声を張り上げた。

「……大二郎さん」

4月に数年ぶりの再会をし、レッドツェッペリンの「天国への階段(Stairway to Heaven)」を弾いて以来だ。

カウンターには、例の週刊誌が広げられている。

「詩月、コンサート楽しみにしている。ゴシップなんぞは、いい演奏をすれば吹き飛ぶさ」

 ニコリ、笑った顔は暖かかった。

「俺はお前の演奏が好きだ」

 包みこむような笑顔が、詩月の強張った表情を和らげる。

「……ありがとう」

 大二郎は詩月の頼りない笑顔に「頑張れ」一言告げた。