「周桜くん、もういいの?」
喫茶店「モルダウ」――学生がピアノを弾いている。
病室に郁子が訪れて数日後、詩月は何事もなかったように席についた。
「ああ、……濡れなかったか?」
「ええ、傘をさして駅まで走った……」
郁子はハッとして詩月を見る。
「どうかしたか?」
「ううん……、Nフィルあるの?」
「コンサートが近いから」
胸元に向けられた郁子の視線を感じ、詩月は素っ気なく言う。
「チケットだ。少し早いが……」
楽譜を入れたファイルから封筒を取り出し、郁子に差し出す。
「ありがとう」
満面の笑みに詩月の胸が逸る。
「ポスターのお礼だから」
詩月はポーカーフェイスを決め込む。
喫茶店「モルダウ」――学生がピアノを弾いている。
病室に郁子が訪れて数日後、詩月は何事もなかったように席についた。
「ああ、……濡れなかったか?」
「ええ、傘をさして駅まで走った……」
郁子はハッとして詩月を見る。
「どうかしたか?」
「ううん……、Nフィルあるの?」
「コンサートが近いから」
胸元に向けられた郁子の視線を感じ、詩月は素っ気なく言う。
「チケットだ。少し早いが……」
楽譜を入れたファイルから封筒を取り出し、郁子に差し出す。
「ありがとう」
満面の笑みに詩月の胸が逸る。
「ポスターのお礼だから」
詩月はポーカーフェイスを決め込む。