「そろそろ、ご飯にしようか」
パタンと教科書を閉じて、先生は時計を見ながら呟いた。
「え、いいんですか?ご馳走になっても……」
あれからも夕飯は、どんなに遅くなっても家に帰ってから、お兄ちゃんと食べてる。
ご飯までご馳走になるのは、図々しいかなって思って。
「全然いいよ~。むしろ、あやちゃんと一緒がいい」
私と一緒がいいって、それって……。
「1人で夕飯食べるのって寂しいじゃん」
一瞬でも自惚れた自分が恥ずかしい。
「ご飯ができるまで、これでも解いてて」
目の前に差し出されたのは、数学の問題が書かれた紙切れ。
先生は台所へ。
いつの間に、こんなの作ったの?
あ、そうだ。
夕飯はいらないってお兄ちゃんにメールしとかなきゃ。
メールを送って、携帯の電源を切って、問題に取りかかった。
「あやちゃん、できたよ~」
丁度数学プリントをやり終えた時だった、声がかかったのは。
「オムライスにしたよ~」
…おいしそう。
しかも大好きな先生の手料理。
「食べてみて。ほら、あーん」
目の前に差し出されたスプーンには、丁度いい量の卵とご飯が。
診察室でのあーんとは違う。
ドキドキしながらも、少し口を開くと、口の中にスプーンを押し込まれた。
「どう?おいしい?」
「はい、とっても」
「よかった~」
好きな人の作った料理は、特別な味がした。

