先生、甘い診察してください



「だけど、全部断ってるよ。思わせぶりな事はしたくないし、その気になられても困る」



淡々と語る先生の顔に、いつもの温厚な笑みはなかった。


私は何も言えず、黙ったままストローでグラスの中のジュースと氷をかき回した。




「相手は患者さん。医者と患者っていう一線を越えるのも、嫌だからね」


……何それ。



「好きでもないのに思わせぶりな事は絶対しない。ハッキリ断った方が相手を傷つけなくて済むから」


先生、もし言ってる事が本当なら……。



「……先生」

「どうした?」



医者と患者っていう一線を越えたくないなら、思わせぶりな事はしないなら……。



「なんで、今日の事、OKしたんですか?私だって、先生の患者さんじゃないですか……」



先生は黙ってしまい、そのまま何も言わなくなった。


漂う空気が少し重苦しい気がした。



「……翔太くんの、妹だから」


ようやく発された言葉は、少し意味不明だった。




「あやちゃんは、翔太くんの妹だからだよ。大事な親友の妹だもん」


……そっか。お兄ちゃんの妹だから。



だから、いつも優しいんだね。


特別な感情があるわけじゃなくて……。