失恋の傷を抱えて、特に何もせずに、夏休みは流れるように過ぎていった。
16歳の夏休みは……色褪せてる。
「……ねぇ、あや」
夕飯の時、とうとうお兄ちゃんは痺れを切らしたのか。
「もう……行かない、つもり?」
「……」
「…治療の途中放棄はさすがに、ね…」
お兄ちゃんが何を言いたいのかは、わかる。
だけど……。
「…もう、行かない」
大橋先生に会ったって、気まずいだけだよ。
「そっかぁ…。痛い思いしたの?何か、嫌な事でもあった?」
告白してフラれました、とはさすがに言えない。
「智也も、心配してるみたいだよ?」
一瞬、心が震えた。
心配?どうせ、大橋先生が心配してるのって…私の、歯の事に決まってる…。
「痛みとかはないの?」
「…うん。もう痛くないよ」
「それはいいけど…でもね、痛くなくても、まだ完全に治ったわけじゃないんだし……」
ガタっと、豪快に音を立てて椅子から立ち上がって、
「とにかく……もう、行かないから」
小さく呟いて、走って部屋に戻った。

