あの日以来、私は歯医者さんに行くのを止めた。
先生にどんな顔して会えばいいか、わからない。
失恋した後の事まで、考えてなかった。
通院を途中止めした事を、お兄ちゃんは全く触れてこなかった。
「あれ、もういいの……?」
「うん、夏バテしたみたい…。ごちそうさま」
夏のせいか、失恋のせいか、食欲もなくなった。
~♪
部屋に戻った途端に、ポケットに入れていた携帯が鳴った。
「…もしもし」
『あ、あやちゃん。今、いい?』
「琉璃ちゃん……」
電話の相手は琉璃ちゃん。
……失恋の事、話そうかな。
『聞いてよ!あやちゃん!私ね…、光平に思い切って聞いたの。私の事好きなのって…』
嬉しそうな、弾んだ声。
『そしたら、あいつね…すっごい真っ赤な顔しながら、好きだって…言ってくれたの…』
「……」
『それ聞いて、なんか嬉しくて…あいつの前でつい泣いちゃったんだ…。本当に嬉しくて…』
嬉しいだろうね。
好きな人に、“好き”って言ってもらえる事はすごく幸せな事だよ。
「…よかったね」
私、最低。
大好きな琉璃ちゃんの幸せを、心から喜ぶ事ができなかった。

