「怜先輩って呼びますからね?」

「…ん。」


何度も確認をしてくる夏目君は、少しだけそわそわしているように見えた。

嬉しそうにしている顔を見ると、じんわりと心が温かくなった。


名前で呼ばれる事が、こんなにも嬉しくて、こそばゆいものだという事を、久しぶりに実感できた。


「俺の事も名前で呼んでください!」

「それは、また…今度」

「えー!せっかく呼んでもらえるかもって期待してたのに」


プゥーっと頬を膨らまして、拗ねている顔を作って見せた夏目君。

見た目と音声が一致しないのは変わらず、それでも、何かが違って見えた。


その"何か"とは分からないけど、

確実に違って感じた。


「絶対今度呼んでくださいね?」

「うーん…」


それは、保証できないけど。

名前で呼ぶなんて事、あたしにはきっと出来なくて、夏目君って呼ぶ事で精一杯だろう。