『夏目君って、可愛いよね~』

『一度でいいから名前呼んでほしい』


周りからは黄色い声で溢れ返っていて、人気という事がはっきりと分かる。

うっとりしてる女子もいれば、そわそわとしている女子もいる。

そんな中あたしの所に来られると、ありとあらゆる視線を背中に向けられている訳で……、

ちょっとした不快感を覚える。


誰も悪いわけではないのだけれど、女というものは厄介で好きな人の事になると"嫉妬"という感情に飲み込まれる。

あたしは、その感情の巻き添えにでもくらっているような気分だ。


「先輩って、いつもこんな感じ?」

「…まぁ」


そんな感情を察するはずもなく、

話しかけてくる夏目君。

穢(けが)れなんて言葉を知らない瞳は、透き通っていて凄く綺麗。

向けられる笑顔は本当に子犬のようで、心がほっこりしてしまう。


一瞬現実を忘れそうになるけど、背中に刺さる視線のおかげで現実に戻された。

教室の中は、アウェーすぎて何とも言えない感情が生まれてくる。