子犬系男子の溺愛っぷり。

あたしの存在なんて忘れられてるみたいなんだけど…

それはそれで悲しいような。


「黒瀬さん、呼ばれてるよ」


同じクラスの男子に名前を呼ばれて振り向くと、廊下に夏目君の姿が見えた。

相変わらず柔らかな笑顔で。


詩織達は気づいてないみたいで、まだ口喧嘩をしている。

口喧嘩と言ってもお互いを貶しあってると言うか、詩織が上手のようにも見えるけど…


「怜先輩、昨日ぶりですね!」

「…そう、だね」


"昨日"という言葉を聞くと、どうしてもあの事を思い出す。

……っ。


「あれ、怜先輩顔赤いよ?…もしかして昨日の事思い出した?」

「そ、んな訳ない…っ!」

「嘘ってバレバレだよ?」


夏目君はあたしよりも一枚上手で、あたしのペースを乱していく。

昨日の出来事が鮮明に残っていて赤面せざるを得ない。


目の前にいる夏目君は昨日の顔と違って子犬系男子で…

それでも目の前の夏目君にドキドキしてしまうのは意識してるから。


「"昨日のキス"、思い出しました?」

「ーーー…っ!」


わざとに聞こえる、この質問。

あたしの心を乱す為に言ってるに違いないだろう。


落ち着け、大丈夫…。

夏目君の思惑にのったらダメ。