タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」

「では・・・始めっ!」

立会人役の王子が、サッと右腕を高々と上げた。


貴族たちの興味本位丸出しの目が輝き、食い入るように見つめている。


バカだんなが自己陶酔しながらフフンッと鼻から息を漏らした。


「まいりますぞ。覚悟なされよ男爵夫・・・」


「どぉりゃあああぁぁーーーーーっ!!」


あたしは即座に短剣を放り投げた。


掛け声と共にドレスの裾をヒザまでたくし上げ、バカだんな目掛けてドドドッと突っ走る。


あっという間にふたりの距離が詰まった。


先手必勝! 速攻ーーー!


右拳を思い切り引いた態勢で、飛び込むようにして大きく左足を一歩踏み込む。


胸と肩の筋肉が収縮してパワーが拳に集中した。


キョトンとしたバカだんなの顔は、いま、目前。


その両の瞳に形相を変えたあたしの顔が映り込む。


なにもかも、なにもかも・・・

なにもかもなにもかも、全部全部・・・


怒りと恨みの、黄金の右がさく裂した。


全身のバネを使い体重を乗せた渾身の拳が振り下ろされる。


クキリと音が聞こえそうなほど反った腰が、反動をつけてブウンと回された。


うおおぉぉぉっ・・・!


「全っ部あんたのせいよーーーっ!!!」


―― ドッゴォォォ・・・ッ!!


クリーンヒットを受けた顔面が醜く歪んだ。


・・・・・・決まった! 会心の一撃!