白タヌキが首を持ち上げ、怪訝そうに言った。


「そうか? オレは別に『白騎士』でいいぞ?」


「それも、なんかちょっと。ねぇ、あたしが名前を付けてもいいかな?」


「ミアンの好きなようにすればいい」


うーん。どんな名前にしようか。


『シロ、ユキ』じゃあんまりに芸がないし。全体の白い体毛を表現して・・・


『総白髪』? そりゃちょっとあんまりよねぇ。


「あぁそうだ! 『ブラン』。ブランにしようよ!」


「ブラン?」


「うん。どこかの外国の言葉で『純白』とか、『無垢』とかの意味なんだって」


真っ白で穢れの無い雪のような体。ピッタリだわ。


闇の中の白タヌ・・・ブランも、そう聞いて満足そうだ。


「ミアンと、ブランか。うん、ピッタリだな。気に入った」


「そう? じゃあ今日からはブラン、ね」


「オレたちは結婚したんだ。お互いの呼び名があるってのも、いいもんだな」


ブランは、あたしのヒザの上でまた丸くなった。


「温かい時期になるまで、オレを抱いて眠ればいい。これから毎日」


「ブラン・・・」


「遠慮するな。オレたちはずっと一緒に生きていくんだから」


・・・・・・・・・・・・。


「ずっと一緒」「結婚」


疑いの色のまったく見えないその言葉を聞くたび、あたしの心は重苦しくなる。


事実から目をそらすように、あたしはブランを抱きかかえながら、横になった。


血の通う温かさ。生きている柔らかさ。


呼吸のたびにふわりと上下する、その体から伝わる確かな安心感。


殺して毛皮にするよりも、こうして生きている方がずっと美しくて価値があるのに。


そう感じながらあたしは、いつの間にか穏やかな眠りについていた・・・。