「おふたり共、聞いていたか? この歌はマスコールに伝わる子守唄」

オルマさんの指先が、そっと王の髪に触れた。


「幼い頃、わたくしの母上から聞いた・・・歌だ」


彼女は遠い目をして、空を仰ぐ。

故郷に思いをはせているんだろうか。


この人は・・・あの時、なにを思ったんだろう。


あたし達と共にマスコールへ赴き、その地に降り立った時。


魔物にまみれた大地。


崩れて寂れてしまった、見る影もない王城。


かつて過ごした、美しく栄えた故郷の変わり果てた姿を見て・・・


心の中で、泣いていたんだろうか。


「オルマさん・・・・・・」


「ほうら、ごらん。王の命はもう風前の灯火」


オルマさんは語り続けた。

優しい子守唄を歌うように。


「オルマさん・・・」


「王は全てを失い、死んでいく」


「オルマさん」


「そして・・・・・・全ては、終わるのだ」


「終わらない」


・・・・・・・・・・・・。


オルマさんの声が止まる。


「終わらない。世界は・・・終わらないよ」


あたしはキッパリと言った。


「そんなことには、あたしがさせないから」