タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」

岩の上に女性が身を横たえ、朗々と歌っている。


長い長い、足先に届くほど長い、濡れ光る緑色の髪。


上半身は裸で、下半身はウロコに覆われた魚のヒレの形をしていた。


まるで作り物のような、まさに伝説で聞く人魚の姿。


とても信じられない。


だってあの女の人、見たとこ普通の人間・・・


と思った瞬間、その女性があたしの方を向く。


女性の長い豊かな髪が、海風に吹かれてなびき、その顔を露わにした。


目が合って、あたしは息を飲む。


女性の顔は、まったく人間のそれではなかった。


完全に魚類の顔だ。


丸いギョロリとした黒い目。前方に大きく尖るように突き出す口元。


分厚い唇全体からのぞく、ズラリと上下に生えそろった、尖った歯。


・・・・・・美しいって、どこが!?


うわグロテスク! たった今から信じる! 妖魔決定!


「あ、でもあたし、歌を聞いてもなんともないんだけど」


「セイレーンの歌は、男性だけを魅了するのです。女性には効きません」


男ひっかけるのが趣味の妖魔か!


趣味は個人の自由だけど、手あたり次第に種族を超えて引っかけないでよ! いい迷惑!