タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」

聞き返すあたしの耳に、確かにどこからか、風に乗って歌声が聞こえてくる。


聞いたことのない、不思議な響きの歌。


ちょっと誰よ! この非常時にノンキに歌なんか歌ってるヤツは!


「セイレーンです!」

オルマさんが叫んだ。

「これはセイレーンの歌声です!」


「せいれーん? なにそれ・・・あ!」


セイレーン。海の魔物。聞いたことがある。


美しい姿と美声で、人を惑わし、眠らせ、船を座礁させる海の妖魔。


・・・そんなバカな!!

だってそれはただの伝説でしょ!? そんな妖魔が本当にいるわけが・・・!


「う・・・」


突然ブランが呻いて、ガクっと倒れ込んだ。


なにかを振り切ろうとしているように、頭を強く左右に振っている。


「ブラン、どうしたの!?」

「歌、が・・・歌が、オレの心の中に・・・」


ブランの両目がぼぅっと霞んでいる。


今にも閉じてしまいそうなまぶたを、懸命に開こうとしているのが分かった。


ほ、本当に!? じゃあこれは本当にセイレーンの歌声なの!?


あたしたち、妖魔に襲われているの!? まさか!


あたしは船のヘリから身を乗り出すようにして確認した。


・・・・・・嘘でしょ!? ほんとにいた!!