タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」

あたしは無言で、男に握られている手を引っ張った。


悪いけど、あんた人生の方向性間違ってるよ。


あたしは男爵夫人じゃないし。


それにさー、女の金をあてにして贅沢しようって、その腹が気に食わないさ。


女の金っていうよりも、そのだんなの金でしょ?


恥ずかしくないの? 愛人の夫のお金で生活しようだなんて。


あーやだやだ。奴隷だって真摯に、己の人生に向き合ってるってのに。


ツンと顔を背けるあたしに、なおも男は言いつのる。


「男爵夫人、どうか私の燃える熱い想いを、その美しい手に受け取っていただきたい」

「いやです」


燃える想いだぁ? ウっソつけぇぇ。


頭を少し冷やしなさいよ。


さいわい海水だったらいくらでもあるんだし、その頭つっこんできたら?


そして運悪く、サメにちょこっと齧られてしまうがいい。


「そんなつれないことを言わずに、どうか」

「いやですってば」


背を向けて歩き出すあたしの腕を、男がつかんで強引に引っ張った。


あたしはバランスを崩して、男の胸に寄りかかる。うわわっ。


「ちょ、なにすんのよ!」

「男爵夫人! 私はあなたを離さない!」


離せ!!


なんなのこの男! ずいぶんしつこい!