タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」

そんなわけで王子に部屋を変えてもらったんだけど・・・。


基本的に部屋替えくらいじゃ、船酔いに効果は無かった。


その後は連日、激しい目まいと怒涛の吐き気に、昼夜問わずに襲われて。


際限のない体調不良で、生死の境をさ迷い続ける日々。


「殺してぇ。いっそひとおもいに、あたしを殺してえぇぇ」


「男爵夫人、お気をしっかり」


オルマさんが付きっきりで、かいがいしく介抱してくれた。


彼女がいなかったら、冗談抜きであたし、遺体となって発見されていたかもしれない。


ブランはどうしているだろうか。


スエルツ王子が、マメに面倒見てくれているみたいだけど。


タヌキなブランにとっては、この潮の香りもたまらなく不快で、余計に具合が悪いらしい。


そんなこんなで、あたしとブランの仲の気まずさは棚上げ状態。


お互いがもう、生きてるだけで精一杯だったもんで。


顔を合わせる余裕すらもなかった。


それだけが唯一、この船酔いの良かったところ。


それでも何日か、のた打ち回る苛烈な日々を過ごしているうちに・・・


身体が揺れに慣れてきたらしく、あまり酔わなくなってきた。


人間って、すごいわー。

どんな過酷な状況でも、生き抜く底力を持っているものなのねぇ。


しみじみと生命力の尊さを実感しているあたしの髪を、オルマさんが丁寧に梳いてくれる。


「お加減がよろしくなって、本当にようございました」


「ありがとう、オルマさん」