タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」

姫があたしに近寄って、扇の陰で小声で話す。


「男爵夫妻だけでは、監視の目が届かぬ部分もあるでしょうから」


「でも・・・」


「オルマ自らが志願してくれたのです。城でただ待つより、本当の忠誠を尽くしたい、と」


オルマさんが、ふくよかな顎を引いてうなづく。


「・・・わたくしは、良い侍女に恵まれました」


「シーロッタ・ヌゥーキー男爵夫妻も、オルマも、ボクのためにありがとう。嬉しいよ」


ひとり、事情を知らないスエルツ王子がニコニコしている。


「アザレア姫、ボク、きっと秘宝を手に入れて帰ってくるからね!」


「さよーでございましょーとも。王子さま」


「ところでそのドレス、すごく似合っているね!」


「さよーでございましょーとも。王子さま」


姫の『さよーでございましょー』攻撃、さく裂中。


やれやれ、と見ていたら、いつの間にか背後に立っていたセルディオ王子に声をかけられた。


「男爵夫人、婦人用の荷物の確認をしていただきたい」

「あ、はい」


忙しそうなセルディオ王子について、その場を離れた。


荷物を抱えた人夫や馬車が、そこら中をガラガラバタバタ、騒々しく行き交っている。


忙しそ~。しかも大荷物だぁ。


船旅ってこんなにたくさんの荷物が必要なのね。まるで夜逃げみたい。


あれ? でもあたし用の荷物なんて、ひとつも持ってきていな・・・。


あたしは突然、セルディオ王子に腕を引っ張られ、大きな荷物の陰に引き込まれた。