タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」

姫は眉を吊り上げ、空中をギッ! っと睨んでる。


その表情には、さっきまでの悲しく儚げな様子は、まったく見られなかった。


「冗談ではありません! ここまで馬鹿にされて、誰が黙って引っ込むものですか!」


「ひ、姫?」


「やられたら、倍にしてやり返す! 目にもの見せて差し上げますとも!」


憎々しげに扇を机にバンバン叩きつけながら、姫は高らかに宣言した。


その姿は、とても悲運に翻弄される、哀れな姫君には見えない。


あたしはポカンとしてしまった。


・・・そーいやそーだった。


この姫って、大したツラの皮だったんだっけ。


スエルツ王子にも王様にも、堂々ケンカ吹っかけてたんだわ。


きっと過酷な環境が、彼女の精神を鋼のように鍛えたのね。


もともと、それで潰れるようなヤワな人間じゃなかったんだろう。


すごいよこの人。

なんかお姫様っていうより、路地裏でしぶとく生き抜く野良ネコみたい。


それこそネコのように目を光らせ、姫は言った。


「さてどうしてやろうか、と思案していた時、オルマが知恵を貸してくれました」

「オルマ?」

「わたくしの侍女です」


さっきからずっと沈黙を守りながら控えていた侍女が、お辞儀をした。


ふっくらした、体格の良いおばさん。