タヌキな騎士と選ばれし花嫁の・・・「愛は世界を救うんです!」

「何を知ってしまったんですか?」

「会話を、聞いてしまったのですわ」

「会話? どんな?」


よほど口に出すのが辛いのか、沈黙してしまったアザレア姫に代わり、セルディオ王子が答えた。


「父上と私たちの会話を、姫は聞いてしまったのだよ」



姫がカメリア王国に来た、その日。


報告に来た兄上は、父上の前で舞い上がりながら、こう言った。


『父上、これでボクのことを認めてくれますよね!?』


『・・・? なんのことか? スエルツよ』


『アザレア姫との結婚を決めてきたことですよ! ボク、すごく役に立ったでしょう!?』


兄上は胸を張り、頬を紅潮させて自慢した。


『これで誰にも文句は言わせません! ボクこそが次の国王にふさわしいんだ!』


『兄上、結婚というものは、もっと神聖なもので・・・』


『邪魔しないでよセルディオ! ねぇ父上、ボクを認めてくれますよね!?』


『・・・・・・・・・・・・』


父上は、そんな兄上になにひとつ言葉をかけなかった。


褒めもせず、諫めもせず、ただ無言で一瞥して・・・


背を向けて・・・歩き出す。


『ち、父上!? 待ってください父上!』


『・・・・・・・・・・・・』


『まだ足りないんですか!? 次は何をすれば認めてくれるの!?』


『・・・・・・・・・・・・』


『父上えぇっ!!』


その叫びに応えるものは、なにもなく。


周囲にはただ、遠ざかる靴音のみが反響していた。