ためらいは、ほんの一瞬だった。


あたしは勢いよく立ち上がり、扉へ向かって一目散に駆け出した。


冗談じゃないっての!

だれが、こんなバカだんなになんか!


いくらあたしが奴隷だからって、そこまで自分の人生を放棄する気は、無い!


ここは普通に拒否していいところでしょう!?



不条理な法がまかり通る、非情な世間。


誰も守ってくれないなら、自分で自分を守るしかない!


逃げる! 逃げ切ってみせる!


あたしは扉を抜け、小屋から勢いよく飛び出した。


家畜が放牧されている草原に向かい、必死に駆け込む。


のんきに草を食べてる牛や羊を横目で眺め、ひたすら走った。



ねぇあんたたち、ここでそんなノンビリしていてもいいの?


今は良くても、いずれは食肉として売られてしまうのよ?


それを自分の運命だと、黙って受け入れるつもりなの?



草を踏み散らし、あたしは全力で駆けていく。

急げ急げ! 走れーーー!!



疾走する足に絡まる、奴隷服の裾。


振り返ると、住み慣れた屋敷がどんどん小さくなっていく。


あたしは前を向き、全速で走った。走り続けた。


捕まるわけにはいかない。人に見られちゃダメだ。


ひと気の・・・ひと気の無いところへ・・・!


あたしの足は、町とは反対方向の山へと向かっていた・・・。