ゼイルは庭へと移動し、クレアとナルベルの様子をうかがっていた。

ナルベルは恋人として付き合ったいく以上に馴れ馴れしくクレアを口説いているようだった。

クレアもさすがに小さな親切程度からいきなりフィアンセなんて考えられないので、逃げ腰になっている。


「どうせ家どうしも親密に付き合っていくことになるのだから、婚約者ってことでいいじゃないか。
すぐに宝石店へ行こう。
それとも、ここにきてもらうのがいいかな。」


「私はそんなの困ります。
どんな人かもわからないのに、婚約のしるしだなんておかしいです。」


「いや、僕にはわかっているさ。
君はもう僕が欲しくて仕方がないだろう?」


「いえ・・・そんな。困ります、やめてください。」


クレアがナルベルに抱きつかれた瞬間、ゼイルはナルベルの腕をはたいて2人を引き離した。


「おいたが過ぎますよ。
やめてほしいとお嬢様がおっしゃってるのに、そういう行動は紳士とはいえませんね。」


「ゼイル!!」


「そうか、おまえは監視役ってわけだな。」


「どういう目的かうちの主人も察しはついているんです。
すべてを明らかに語ってあげてもいいんですけど、嫌なら引き揚げなさい!」


「くっ、金持ちなんておまえんとこの主人だけじゃないんだよっ!」


ナルベルは捨て台詞を残して去って行った。


「ゼイル・・・ありがと。
もう私は大丈夫だから、お父様のところへもどってください。」


クレアがそういって部屋に戻ろうと歩き出すと、すぐにつまづいて転びそうになった。
しかし、ゼイルがクレアを受け止めていった。


「ほんとにもう、手間がかかるお嬢様だな。
怖くてまだ歩ける状態じゃないくせに。
腕だって震えてる・・・部屋まで運んでやるから、落ちないように俺にしがみついてろよ。」


「う・・ん。ごめんなさい。」


クレアを部屋のベッドに座らせるとゼインは何もいわず、部屋から出ていこうとしていた。


「待って!」


「何か用ですか?」


「お父様にはさっきのこと言わないで。
もう、あんな人と会いたくない・・・だけで・・・。
親切のおかえしがあんなのは嫌。

私、わかってたはずなのに。
お父様の娘だから気をつけるようにいつも言われてたのに。」


「あいつは最初から思惑があってきたんですよ。
それは気にしなくていいから。

親切なことをすることはいいことです。
それにつけこんだ悪いやつがいけないだけで、今回のことは気にするな。
だから俺がそばにいる。」


そして、ゼイルはすぐに部屋を出ていってしまった。