クアントの書斎の書庫にあった本をクレアは探しはじめると、5分もしないうちに見つけることができた。

「あったあった。
この手の本はお父さんいっぱい持ってたから助かるぅ!」


クアントの机の上は今はゼイルの仕事場でもあるようで、書類がいろいろと積まれていた。


「あらっ?」


書類の隣に見覚えのある後ろで束ねたカツラと茶色のコンタクトレンズが置いてある。


「これって・・・えっ?」



「とうとうバレてしまったか。
油断したな。」



「ゼイルがセイさんだった・・・。こんなストーカーみたいなこと。
それに気も付かずに・・・私、バカよね。」


クレアが部屋へもどろうとするのをゼイルは力で引き戻すように抱きしめた。


「ごめん。ごめん・・・クレア。
俺はこんなことしか思いつかなかったようなひどい男だ。

けど、これだけは信じてほしい。
君がここからいなくなって心配で心配で仕方がなかったんだ。

普通に会いに行くこともできなくて、悩んだあげくに兄さんからリックに頼んでもらった。
弟だとは言わずに従弟ってことにしてもらって、アルバイトだったり客だったり。

セイに接してくれるときの君はとても真剣で優しくて、つい居心地がよくなってしまって、仕事が山ほどあるときでも店にいってしまって仕事が終わらなくてあとで後悔したりしてさ。

それでも、君が笑顔で話してくれるのがうれしくて。

ただ、セイとして君に接していて君がセイを好きになってしまったらどうしようかと考えたときがあった。
だけど君は・・・」



「いやっ!もうやめてよ。
もう、声で気付けばよかった。
ううん、似てるなとは思ってたのに・・・。

ほんとに私はバカだわ。
とことん、ゼイルにバカにされるばかりで・・・やっぱり私は子どもです。
もう認めるわ。どうでもいい・・・もう、放っておいて・・・。」


「嫌だ!俺は初めて遊んだときから、君が好きなんだ。
放っておけるわけがない!

君は冗談だとか、バカにしてるとしか思ってないかもしれないけど、俺は兄貴がうらやましかった。
ずっと君の傍にいられるのがうらやましくてしょうがなかった。

でも君はいいことはみんなロイとしか言ってくれないし、俺は兄の付属物でしかなかったからあきらめてた。
でもそのおかげで、勉強もはかどったし、クアントの仕事を引き継ぐこともできた。

なのに接する距離は近くなっても、君の心は遠のくばかりで、俺はイライラして時には当たってしまって、君にまた嫌われて・・・。

それで、こんな変装まで考えて。
君が学生だろうが、パーティー慣れしていなくても関係ないんだ。

俺の中では、クレア以外の女性なんか結婚など考えたことがない。」


「どうして・・・私なの?
私、パーティーでも役立たずだし、家事も仕事もゼイルの方がうまいし、家ではいつも怒られてたのに。」


「それをきくのか?」