リックの言葉にクレアはきょとんとしていた。


「なんで忙しくなるの?」


リックは笑いながらクレアに説明を始めた。


「明日、マラソン大会があるんだよ。
それで、今日から準備する人たちがいろいろ準備をするんだ。

小さな町だからね。レストランも数が限られるだろう。
それに、忙しい人はゆっくりフルコースなんて食べていられない。
だから、ちょっと食べていけるうちみたいな店が喜ばれるってことだ。

それに、厨房のスタッフを少し増員してテイクアウトできるものを用意してるんだ。」


「それはいいわね。
ここまでたどりつけない人だって、多そうだもの。
でも増員ってよくシェフの代わりなんていたわね。」


「まぁサンドウィッチ主体の軽いものだからね、シェフをしてたときの学校の後輩とか声をかけさせてもらったんだよ。
短期バイトだからね。」


「へぇ。ちょっとご挨拶してこようっと。」


「クレア、あのさ・・・。あ、行ってしまった。
ちょっと紹介しそこねた人物が・・・。」



厨房の端っこで髪を後ろで束ね、大きな眼鏡をした青年がテイクアウト用の料理を仕切っていた。


「エビ100、カツ100、タマゴ100、ミックス100・・・あがったものから箱詰めしていくんだ。
おてふきも忘れないように。
用意ができあがった地区の分から呼んでくれ。
チェックしていくから、その確認作業後担当者に取りに来てもらってくれ。」


「すごい。いつもなかった部署が違う作業所になっちゃってる!」



独特の忙しい活気にこっそり店の方に出て行こうとしていたクレアだったが、出る直前に大きな眼鏡の男に呼び止められた。


「君が看板娘のクレアさんかな?」


「は、はいっ。あの・・・おじゃまかと思いまして。」


「俺は臨時シェフでやってきたセイだ。ふだんは会社勤めだが、2日間だけリックに頼まれた。
よろしくね。」


「そうなんですか。あ、こちらこそよろしくお願いします。」


と、何気ない挨拶をかわして、リックのところにもどったクレアはびっくりしたことをリックに伝えると、


「ごめんね。説明しようと思ったら、もう奥の方へ行ってしまってたからね。
臨時で主任として雇ったんだ。」



「そうだったんですか。でもふだんは会社勤務なのによく手伝いにきてくれましたね。」


「うん・・・。もともと料理は好きな人だし、話をしたら喜んできてくれらからね。
まぁ、頼むよ。」



「はい。・・・って私は何をすればいいんでしょう?」



「もちろん、このカウンター席中心にいつものようにサービスしてくれればいいんだよ。
奥が一段落ついたら、彼もこっちにきてくつろぐから、その時にはお茶や食べ物を持ってきてくれればいい。」


「はい、わかりました。」