その後、クレアは高校を卒業し、地元の大学の商学部に入学し、同時に父の遺した会社にアルバイトとして入ったのだった。

しかし、元社長の娘であることは誰にもいわずに、一般のアルバイトと同じように働いていた。


「デザートの在庫チェックしてきますね。」


「よろしく頼むよ。」


クレアは上司にも評判よく、真面目に働いていた。

それはもちろん、社長であるゼイルにも報告されていた。



「なかなかやるねぇ。だけど・・・」


「社長、その娘は前の社長の・・・どうかしたんですか?」


「うん。なんていうか、真面目すぎるんだよね。
たぶん、遊びなんて知らないと言うか。

まぁ、大学入ったばかりの女の子だから仕方がないといえば仕方がないんだけどね。
このままだと悪い男にひっかかって・・・だろうしね。」


「なるほど・・・それならいっそ、社長のお嫁さんにして教育してさしあげればいいんじゃないですか?
手取り足取り教えてあげれば。」


「バカ言え、俺だってまだ勉強中の身なのに、何を教育するっていうんだよ。
それに、クレアは俺なんかいずれ抜いてしまうかもしれないのに。」


「めずらしく弱気ですねぇ。
そういえば、アルバイトでまだ執事やっておられるんでしたっけ?」


「今はほとんどできてないよ。
メイドにまかせっきりだ。

でもそろそろ・・・。いや、さあ仕事仕事。」



夕方18時を過ぎた頃、ゼイルは久しぶりに執事の格好をして邸へともどった。
しかし、クレアの姿がなく、どこへ出かけるというメモも残っていない。


「おかしいなぁ。どんなに気まずい口論をしても、どこにいるかはきちんと書いていってくれるはずなんだが・・・おかしい。
まだ、会社か?」


携帯に電話をかけても出ないので、ゼイルは会社のアルバイトの行動範囲を歩いてみた。

そして、やっとクレアを見つけたところは・・・?


「クレア、しっかりするんだ!クレア。
クレア、俺がわかるか?目をあけるんだ!」


「さ、寒い・・・」


「冷蔵庫の鍵が外からかけられているなんて!
とにかくあたためなければ!」


家に入ってすぐにクレアの濡れた服を脱がせ、ゼイルは自分の寝床へと服を脱いで入った。


「低体温の域を脱してくれ!クレア、クレア・・・まだ寒いか?」


「寒いよ。誰か、助けて。」


手をのばすクレアの冷たい手をとって、くりかえし呼びかける。